「ありふれた風景画」百合小説レビュー
- 作者:あさのあつこ
- 巻数:全1巻
- 初版:2006年
- 分類:GL、青春小説、クール✕不思議系
「あさのあつこ」様作の百合小説「ありふれた風景画」の感想まとめです。具体的な内容には触れないくせにネタバレ少しあるのでご注意ください。
あさのあつこ先生といえば「バッテリー」をはじめとして数多くの著名な作品を世に送り出している方ですね。私はあまり読んだことがなかったのですが「ありふれた風景画」はお気に入りの小説の一つです。
否応なしに環境の変化を余儀なくされる10代という年代に特有の焦りのような感情が巧みに描写されており、大変面白いです。
巻末の解説を読む限りでは青春小説としての側面の方が注目されていたのかなぁという気もしました。
主人公の成長が分かりやすく描かれていますし、メインの女子高生二人の物語の対比的な扱いとはいえ、男子高校生と年上の女性のストーリーも併せて描かれていますしね。そちらはそちらで胸に穴が空いたような切なさが伝わってきて良いですが。
しかしながらまあ、そういった事情は重々承知の上でこの小説を百合小説として推していきたいですね。
周囲との間に漠然とした壁を感じ、冷めた態度を保ってきた「高遠琉璃」が、初めての感情に戸惑いながらも自分の殻を打ち破り、「綾目周子」との恋のために突き進んでいく、百合ですね。圧倒的に百合です。ドストライクでした。
この小説の何がそんなに好きなのか考えると、多分心理描写です。恋をする二人の心理がそれぞれの視点から非常に丁寧に描写されていて、引き込まれました。綾目周子は登場シーンからして中々の変わり者という感じでしたので、彼女視点の章があることに最初は驚きました。
ただ、これによって彼女にとっての「普通」が何であるのかについて共感はできないとしても理解できるようになるんですよね。そして、ごく自然に応援したくなります。そういうところが上手いなぁと、何様だよと自覚しながらも思います。
だらだらと綴ってしまいましたが、素晴らしい百合小説であるのは間違いないですので、未読の方はいかがでしょうか。ラストのキスシーンの余韻はスゴイですよ(ネタバレ)。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。