「少女妄想中。」百合小説をレビューしたい
- 作者:入間人間
- 巻数:全1巻
- 初版:2017年
- 分類:GL、SF(すこしふしぎ)、年の差、連作短編集
「やがて君になる」のスピンオフ小説「やがて君になる 佐伯沙弥香について」が発売されましたね。
早く読みたいなとは思っているのですが残念ながらまだ読めていませんので、今回は同タッグの過去の小説「少女妄想中。」の方のレビューもとい感想を書いてみます。ネタバレが少しありますのでご注意ください。
短編集ですので簡単に各ストーリーについて、振り返ってみました。
ガールズ・オン・ザ・ラン
幼少の頃から見え始めた、全速力で走ったときにだけ現れる少女の幻を追って、主人公の「アオ」がひたすらに走り続ける物語。小学校、中学校、高校、大学、社会人と大人になるにつれて、段々と昔のようには駆け出せなくなる中、恋い焦がれた彼女に手を伸ばすためそれでも懸命に足を前に出そうとする姿が、私には羨ましく感じられました。
幻影を追う「アオ」と、自分の目には映らない何かを追い続ける彼女を、ずっと側で見守り続けた幼なじみの「芹」の対比が切なかったです。置いていかれる方はいつだって寂しいですね。
銀の手は消えない
夢の中の住人であることを自覚している主人公の女子高生「三島」が、ある日出会った不思議な少女「シロネ」と夢の世界を散策する物語。自分の存在は誰かが夢見た結果であり、夢の持ち主に都合の良い存在として形作られていることを自覚しながらも、夢の中というフワフワとした場所で自分の意思を保ち確固たる芯を持って生きようとする姿が私には眩しく映りました。
夢の中でさえ輪郭がボヤけないのは、夢の主が「三島」をよく知るが故でしょうか。ままならないですね。
君を見つめて
物心つく前のごく幼い頃に誤って玩具で叔母の目を突き刺し失明させてしまった主人公の女子高生と、彼女に右目の視力を奪われた叔母の物語。他者に関心を払わず、淡々と毎日を生き、ともすればするりと消えていってしまいそうな叔母へ消えぬ繋がりを残したことに昏い喜びを感じる主人公がいじらしいです。
右目を失ったからこそ得た幸せもあれば逃した幸せもある、そう悟る叔母は本当に嘘偽りなく自身を失明させた姪のことを恨んではいないようです。積み重ねた年月がそうさせるのでしょうね。
今にも空と繋がる海で
後日談的な側面が強く他の短編を読んだ後に読んだ方が良いかと思いますので、レビューは割愛させていただきます。
できるだけ分からないようにレビューしたつもりですが、各話独立した短編ではなく、連作短編形式で繋がった「芹」についての物語になっています。ただ、独立した話として読んだとしても問題ない気はします。このあたりの構成の上手さは流石ですね。
個人的には、「君を見つめて」と「今にも空と繋がる海で」が好きです。前の2話を読んだ後だと感動もひとしおです。
入間人間氏が著者ということで内容に関しては折り紙つき。読後感も良いので、未読の方はいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。